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営利活動を超えたスクール
2002年5月10日 |
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≪老舗の余裕≫
今年のはじめ、1月か2月だったかニューオータニでビジネスランチを取る機会があった。私がニューオオタニを快く思わないのは、あの広さの中で一体どこがロビーで、エレベーターで、レストランに行き着く道筋なのかがまるでわからないかならなのだけども、そう言っていること自体が田舎者の証明のようなので、これ以上は触れないでおこう。
というわけで当日も迷宮に迷い、遅刻ぎりぎりいっぱいだった。 本当に偶然なのだが、さすがに小走りになった私の目にECCのパーティーが目に映った。興味があったので、少し立ち止まっては見たものの、待ち合わせの厳しい掟には勝つことができずにその場を立ち去った。
印象に残ったことといえば、「ニューオータニでパーティーなんてリッチだなぁ」ということと、「社員(であろう)お姉さんがきれいだな」ということ、そして「みんないい笑顔をしているな」ということだった。(パーティーなのだから当然といえばそうかもしれませんが・・・)
ECCは英会話スクール大手5社の中でも老舗だ。マーケティングなども老獪で、例えばパナソニックと組んで教材(だったかな)を作ったりしている。言って回っているわけではないから表に出てくることはなかなかないが、表に出てこないもうひとつの面。ボランティアにも実は力を入れているようだ。
「なぜ、非営利活動を宣伝材料にしないのか?」 私の率直な疑問はやはり、マーケティング主体の考え方だった。この疑問が何となくニューオータニの社員の笑顔にあるのではないか、やりがいと誇りを持って活動していることがそっくりそのまま経営として生きているのではないか。
まだまだ甘い考えかもしれないが、どうしてもそう思えてならなかった。 また、わざわざボランティアを宣伝しなくても十分に儲かっているからいいのかな。コンサルとして実に甘い考えで自分を納得させてしまった。
≪結局は社員の顔で判断≫ アメリカの一流企業では儲け分を社会に還元する、ということが当たり前のように行われている。多額のお金がNPOやボランティア団体、各種基金に流れる。日本の企業はまだまだ「ボランティアにお金を払うなんて、ウチも経営は苦しいのに」という考えもまかり通っているが、これは企業の意識の低さばかりが原因ではなくて、そもそもボランティア団体が理想だけで活動をしていて実質的な運営能力が低いから、結局かけた金銭が無駄になるということもあるし、また、寄付金は税務上ちっとも優遇されないという「お国の問題」もある。
「それなら止めておこう」と考えるのが、企業の健全な姿というものだ。日本では企業を責めるのが酷だろう。 だから、「進んだアメリカの手法を取り入れよう」という考えでボランティアなど行っている企業があるとしたら愚か者以外の何者でもない。
また、ECCが行わないように、実際に宣伝したところでその効果はあまり期待できない。よくわからない消費者は「それなら授業料値下げしてよ」と思うばかりだし、頭のいい人は上に書いたような理由を思って、「バカげている」と考える。
では、日本でボランティアを行う企業は将来性ゼロだ、と言えるかというとあながちそうとも言えない。ボランティアはつまるところちゃんと利益を上げている優良企業でないと行うことができないし、誇りがないとなかなか手間をかけることができない。
しかし、この2つの条件を満たしている企業は(英会話スクールに限らず)社員がとてもいい顔をしている。 結局は社員の顔を見ていれば、ボランティアがあろうがなかろうが、儲かっているか、プライドがあるかの2点は見分けることができると思う。これはスクール経営者に対してのみではなく、消費者がスクールを選別するときに単純だけど重要な要素になると思うからしっかりと覚えておいてほしいと思う。
≪ボランティアの最終形態、奨学金制度≫ さすがにこれには素直に驚いた。7アクトが4月末に奨学金制度を設け、同スクールのおそらく唯一の収入源になっているであろう入会金を全額免除、という大技にでた。利益をボランティアに還元するのではなく、最初から利益を取らずにボランティアするのだから驚かずにいられるわけがない。
7アクトは昨年も養護施設の子供に対してボランティアを行っており注目していたのだが、それほど規模も大きくないようだし、経営者の自己満足レベルと勝手に判断していた。
実のところ、スクール業界に限らずボランティアを行っている企業の中には社長なりの自己満足でボランティアを行うところも多い。こういうところは必ずといっていいほど社員の笑顔はないか、作られた笑顔が実に気持ち悪い。
7アクトではそれがなかった。 情報を扱うコンサルタントとしてとても助かるのは、企業の方針として情報公開を積極的にしてくれることなのだが、7アクトは快くインタビューを受け入れてくれた。
簡単にこの奨学金制度を説明すると、入会金免除→レッスンを12回受けたらその後入会する消費者にレッスンの体験を全20回ボランティアでお話するというもの。
奨学金をもらった人(正確には入会金を免除された人)にボランティアをさせるとは・・・。経営サイドは何も言っていなかったが、これは立派な口コミマーケティングではないか。
話を聞くに従って、どうもこれはマーケティング戦略の一環らしいという感じがますます強くなり、斜めに構えて質問を進めた(笑顔でね)。もっとも内心ここの経営者にコンサルは必要ないな、なんて思っていましたが(笑)。
ところが、それとなく「頭いいですね」という話を振ると、「とんでもない」という返答。 聞けば、この企画自体が社員から出たものであるらしく、「大学に行きたかったのに奨学金が出なくて悔しい思いをした」から、是非やろうということではじまったと言う。
正直、耳を疑った。 これはもうボランティアの最終形態だ。 利益の上がる経営+プライド。この結果社員の顔を見ると必ずいい顔をしているというファーストフローの法則(?)の枠を飛び越えた考えだ。どのスクールも真似するといいと思う。いや本当に。
社員がいい顔をしていて、熱い想いを形にしてしまう。結果、消費者も得をする。 やはり7アクトにコンサルは要らないな。
≪何だかんだいって社員の顔≫ 最近メールを送ってくれた方はこう言っている。 『誰か、働く事が楽しいと思わせてくれる人がいるだけで業績が変わるのになかなかそれが出来る、「見せてあげる」ことの出来る20台後半から30代の中堅管理職がいないのが現状でしょう』
「社員教育」に話をしたくなってしまうが、ここはぐっとこらえて、社員の顔の話に引き戻そう。 結局最後は社員の顔。「働くことが楽しい」と感じている社員の笑顔。上のメールを送っていただいた方は「業績が変わる」と言っていますが、本当にそうだと思いますよ。私だって雰囲気のいいフレンチできれいなウエイトレスさんが楽しさと誇りを持った笑顔で「ワインはいかがですか」などと聞かれたら、そりゃ、
「じゃあ、頂こうかな」(低音) と言ってしまう。 社員が楽しく仕事できる→客が喜ぶ→儲けにつながる→社員が喜ぶ。こういうスパイラルを持っているスクールはやはり強いし、スクール経営者としては見習ってしかるべきだろう。
インターネットの世の中になっても、結局いい経営は「人」に依る。 スクール経営者はここのあたりを見直すことがもっとも大切なのではないだろうか。まずは社員の顔色を見てみよう。
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